世界中の航空会社では自社利用者を囲い込むため、多頻度顧客に対して様々な優遇制度を設けています。
ANAやJALも世界で有数の顧客囲いシステムを設けています。それがANAのSFC制度(Super Flyers Card)と呼ばれる制度。
これは、1年間で一定のANA便への搭乗基準を満たすと、その後生涯にわたり、エコノミークラスや格安運賃での搭乗時にも優先搭乗やラウンジ利用などの、「上級会員サービス」を受けることができるというもの。
この一定の基準を満たすために飛行機にたくさん搭乗することをいわゆる「SFC修行」と言われています。
このSFC修行は、2016年~2017年にかけて大ブームを引き起こしました。
そのブームの影響もあり、近年様々な制度変更が行われています。今回は、ここ1~2年間に行われた制度変更や改善・改悪について一挙総まとめをしました。
見れば見るほどので、2018年のSFC修行僧や、今後修業を計画している方はぜひご覧いただければ幸いです。
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大幅に悪化したPP単価と、若干の制度改善
運賃制度の変更などに際して、ANAは必ずプレスリリースを出します。しかし、多くの場合、利用者が改悪だと思うリリースの出し方はしません。
プレミアムシートの当日アップグレードの値上げの件も、ANAは「事前にアップグレードができるようになりました!(ただし大幅値上げするけど)とポジティブなリリースをします。さらに値上げ等についても、半年ごとの運賃発表の際に少しずつ値上げしていきます。したがってほとんどの利用者は「いつの間にか制度が改悪されている」ことに気づく機会があまりありません。
しかし着実に値上げが進んでいます。羽田-沖縄のプレミアム旅割28運賃を例にここ数年の運賃推移を確認してみます。
年 | 最安値 | 最高値 |
2016年 | 21,200円 | 33,700円 |
2017年 | 24,700円 | 28,000円 |
2018年 | 28,200円 | 43,400円 |
最低価格、最高価格ともに上昇しています。最安値は羽田を夜出発する便なので当日中に帰れず那覇宿泊が必要です。実質、日帰り修業はできない便です。
このように2016年の修行環境と、今では料金や制度が大きく異なっています。
この間に行われた制度改正のほとんどは、SFC修行には不利な変更、ズバリ改悪です。いわゆる「美味しい運賃」や「裏技的予約方法」がどんどん潰されて少なくなっています。
特にSFC会員への入会資格が得られる50,000PPのプラチナステイタスへの到達には、2016年頃はPP単価8円~9円程度、合計40万円~45万円程度で到達することが一般的でした。
しかし、2018年4月以降のSFC修行では、PP単価10円を切ることすら難しい状況です。その具体的な理由を見ていきましょう。
プレミアム運賃の当日アップグレードの大幅値上げ
2017年12月20日に、プレミアム運賃のアップグレード予約&アップグレード料金変更がアナウンスされました。これは、2018年4月からの搭乗便について、プレミアムシートへの当日アップグレードがこれまでの一律9000円から、距離や区間に応じて5,000円~15,000円へと大幅に値上げされました。
これまで、搭乗距離1時間ちょっとの「羽田-伊丹」も、3時間超の「羽田-石垣」も同じ9000円だったので、それを見直すというもの。
それ自体は正しいのですが、実際に見直し後の「羽田-伊丹」は10,000円。「羽田-福岡」、「羽田-沖縄」「羽田-札幌」などが15,000円と値上げです。なお、前日までのアップグレードならば1000円引きとなりますが、それでも修行僧が利用する路線はほぼすべて大幅値上げされています。
なお、安い普通席で予約して、当日プレミアムシートへアップグレードすると、普通席の積算率75%から、プレミアムシートの積算率125%へと付与PPが50%分増加します。(公式サイト)
これまで那覇線ならば、当日+9000円でアップグレードすることで、獲得PPが984ポイント増えて、PP単価が9.15とアップグレード自体がお得だったのですが、今回の値上げにより軒並みPP単価が悪化しています。
発地 | 着地 | 変更後 | 増分PP | PP単価 |
---|---|---|---|---|
羽田 | 伊丹 | 10000円 | 280 | 35.7 |
羽田 | 札幌 | 14000円 | 510 | 27.5 |
羽田 | 稚内 | 7000円 | 679 | 10.3 |
羽田 | 福岡 | 14000円 | 567 | 24.7 |
羽田 | 沖縄 | 14000円 | 984 | 14.2 |
羽田 | 石垣 | 14000円 | 1224 | 11.4 |
羽田 | 小松 | 5000円 | 211 | 23.7 |
伊丹 | 札幌 | 14000円 | 666 | 21.0 |
伊丹 | 沖縄 | 10000円 | 739 | 13.5 |
福岡 | 沖縄 | 7000円 | 537 | 13.0 |
福岡 | 札幌 | 14000円 | 882 | 15.9 |
沖縄 | 札幌 | 14000円 | 1397 | 10.0 |
沖縄 | 石垣 | 3000円 | 247 | 12.1 |
安いエコノミーチケットで得られるPPを増やすという戦略のうまみが少なくなってしまいました。まぁ、多少PP単価が悪化しても座席が快適になるメリットは捨てがたいのですが。
プレミアム旅割28の予約開始日変更と大幅値上げ、そして運賃名称変更へ
「プレミアム旅割28」は事前にプレミアムクラスを予約できる最も安い運賃です。プレミアムクラスは機内食やアルコールの提供もあり、座席も非常に快適なうえ、普通席よりもPPが貯まりやすく、さらに搭乗ポイントも400PPがつくということで、修行僧に最も愛用されている運賃種別です
ただし、そのような理由もあり、いつも予約が困難なほど大混雑でし烈な予約争いに打ち勝つ必要がありました。そのプレミアム旅割28は昨年から制度変更が繰り返されています。
予約開始期間の変更(2か月前→一斉発売へ)
2017年8月に販売が開始された「プレミアム旅割28」では、予約開始期間が、従来までの2か月前の同日から、半年分を予約開始日に一斉発売される方式に変更されました。(公式サイト)
2017年8月29日に、2017年10月29日~2018年3月24日搭乗分を一斉販売
2018年1月25日に、2018年3月25日~2018年10月27日搭乗分を一斉販売
従来は2か月前から予約開始でしたが、乗り継ぎ特例などを利用して、2か月+14日前に予約する裏技テクニックが紹介されていました。
今ではそういった裏技は利用できなくなっています。ただし、ダイヤモンド会員やステイタス所持者は先行予約が可能です。
ステイタスを所持していないSFC修行僧は繁忙期の修行予約などは若干厳しいかもしれませんね。
プレミアム旅割28運賃の大幅値上げ
2018年4月1日以降の搭乗分について、「プレミアム旅割28」の運賃も大幅に値上げされています。。プレミアム運賃の値上げは、2018年4月からの運賃一覧にひっそりと値上げ後の運賃が記載されているのみ。
修行僧御用達の羽田-那覇線のP旅割28の午前中に羽田を出発する便の最低価格は、2017年4月は24,700円だったのに、2018年4月は32100円と8,000円近く値上げとなっています。
PP単価が、8.6円から11.2円と大幅上昇。50,000PPに到達するためには昨年は43万円でしたが、今年は56万円必要ということになります。(公式サイト)
なお、現在販売されている期間である10月27日までは、30,000円を上回る運賃ばかりです。年末年始に向けて、多少値段は下がるとしても、PP単価11円程度と修行僧的にはかなり厳しい運賃です。
プレミアム旅割28の名称が変更に
2018年10月28日より、プレミアム旅割28の運賃名称が変わります。(公式サイト)
「ANA SUPER VALUE PREMIUM28(ANAスーパーバリュープレミアム28)」です。
制度自体は大幅な変更はありません。運航ダイヤ確定後の一斉発売ということで、現在と同じ8月と1月に販売されます。
次回の10月28日~3月30日搭乗分は、8月28日(火)に一斉発売です。(ステイタスやANAカード所持者は先行発売アリ。)
https://www.ana.co.jp/ja/jp/domestic/promotions/special-info/fare2018/#schedule-fare-sale
プレミアム株主優待の値上げ&席数制限の実施
プレミアム株主優待割引運賃は、直前まで予約可能で、原則として正規運賃であるプレミアム運賃と同じ座席供給量であることから、修業日程の確定が直前までわからない修行僧にとっては主力の運賃です。
しかし、2018年4月1日のANAプレミアムクラスの料金全般に影響しています。
プレミアム株主優待運賃も例にもれず大幅に値上げです。
具体的には羽田-那覇間で2018年3月までは「31,050円」だったプレミアム株主優待割引運賃が、「38,050円」へと7000円もアップしたのです。PP単価で10.8円から13.3円と大改悪(優待券代含まず)です。ただし年間を通じて便等によらずほぼ同じ金額。
修行僧にとって便利なことには変わりありません。
プレミアムクラス株主優待割引運賃の座席制限の導入(18年10月~)
さらに2018年10月28日以降搭乗分については、プレミアム株主優待割引運賃を利用できる座席数に制限がかけられます。
(公式サイト)
実は、プレミアム株主優待割引運賃については、2016年6月から「繁忙期に限って」優待運賃を利用できる座席に制限がかかりました。しかし実質的にその制限はそれほど厳しいものではありませんでした。
今回の座席数の制限がいかほどのものかはわかりませんが、もしプレミアム旅割28の座席と一緒の枠になるのであれば、予約自体がかなり厳しくなる可能性があります。正規運賃のプレミアム運賃は、直前まで予約変更が可能なため、キャンセルもよく出て、直前予約も可能なのですが、プレミアム旅割28は、55日前から予約キャンセルは手数料が発生するため、よほどでなければキャンセルする人は出ないからです。
株主優待割引運賃の値上げ&座席制限は修行僧にとってはかなり大きな痛手になりそうです。
国際線発券の国内線区間の積算率の見直し(低下)
2017年8月に発表された「国際線区間の国内線利用」の積算率がこれまでの100%から、国際線区間の運賃種別に合わせた積算率に変更されます。(公式サイト)
基本的には改悪です。
これは、いわゆる「OKA-SINタッチ」と呼ばれる、沖縄-羽田-シンガポールの経路を利用するとき、沖縄-羽田間は100%と高い積算率で加算されていたものが、羽田
これまで羽田-シンガポールの運賃種別に応じた積算率に変更となるものです。ビジネスクラスやプレミアムエコノミークラスの運賃を利用しなければ、大幅に積算率が低下となります。
以前は、エコノミークラスを利用して羽田-那覇-羽田-シンガポール-羽田-那覇-羽田をとんぼ返りするOKA-SINタッチは、まさに修行にふさわしい苦行の代名詞でしたが、近年プレミアムエコノミーやビジネスクラスがリーズナブルな価格で販売されており、エコノミークラスに国内線区間をくっつける修業は主流とは言えませんので、影響はそこまで大きくないはずです。
若干の改善点も一応説明
ANAの言う「制度改正」は、利用者にとっては改悪であることがほとんど。
今回も主要路線のプレミアムクラスの大幅値上げと、座席制限の導入など大きな改悪です。一方で、ごくわずかですが、改善点も見られます。
機内wifiの無料化
2018年4月1日より、ANAの国内線でもwifiサービスが無料で提供されています。国内線の修業は案外時間を持て余し気味。機内で提供されている動画もすぐに見飽きてしまいます。
そんな中今年の4月に導入されたwif無料サービスはとてもありがたいです。
LINEやツイッターはもちろん、ネットサーフィンもどうにかできるレベル。
事前にダウンロードしておけば動画の閲覧も可能です。
amazonプライムビデオなどは、動画を事前にダウンロードできるケースもありますが、実際の再生前にはネットにつないで認証作業が必要。
動画を直接再生するのは難しいものの、事前にダウンロードした動画を再生するための認証には十分な帯域があります。
機内食の質向上とアイス提供の廃止
昨年頃より、ANAのプレミアムクラスでは、弁当形式での機内食の提供から、陶器の容器や立派なカトラリーを利用した機内食へと提供方法が変わっています。
ただし、それに伴い、黒糖アイスの提供が終了してしまった模様。
今も有料での販売はされていますが、無償提供だと思って声をかけた後に、「有料ですがよろしいですか?」と聞かれて恥ずかしい思いをしてしまいます。
カードラウンジ(パワーラウンジ)が大幅パワーアップ
ANAではありませんが、若干触れておきます。空港のラウンジと言えば、これまでは航空会社ラウンジの圧勝でした。
しかし、2017年4月からリニューアルオープンが続く羽田空港のカードラウンジの「パワーラウンジ」については、航空会社ラウンジに匹敵する快適性があります。
特にソフトドリンクの充実や、飛行機が一望できる待合スペースなどは、ANAラウンジを上回ることも。これまで、往路はプレミアムクラスを利用してラウンジでゆっくりくつろぐことが定番でしたが、さすがに朝からアルコールは飲まないよ、という人は、羽田空港を出発地とする路線はエコノミーでも十分かもしれませんね。
まとめ・全般的にSFC修行へは改悪の方向で進むここ数年間
以上のように、昨年から徐々に、でも確実に改悪の方向に進んでいることに間違いはありません。
一番顕著なのがいわゆる「PP単価」。過去のブログを見ると、PP単価は8円とか9円と、10円を切るが当たり前で、総額45万円程度がSFCを完遂するための相場でした。
しかし、2018年4月以降では、国内線修業ではどんなにうまくいってもギリギリ10円を切れるかどうか。プレミアムクラス利用では11円~12円程度で総額だと55万円~60万円程度必要になりそうです。昨年と比べても20%増し、10万円以上追加での出費が必要です。
この理由は当日・株主優待、旅割28などすべてに影響しているプレミアムクラス運賃の大幅な値上げが原因です。もし、単価を追求するならば、エコノミークラスや国際線を利用した修行ルートもあります。ただ、国際線利用ならばまとまった休暇が必要でなかなかむつかしい。
一方で、従来よりも値上がりした影響で、以前よりも若干プレミアムクラスの空席が散見されるようになっています。
すし、エコノミー利用は回数も増えて快適性も下がると痛しかゆしです。
羽田空港でパワーラウンジを利用できて、体も元気な往路はエコノミークラスを利用。復路はプレミアムクラスを利用してアルコールを楽しみながら帰宅するというのはバランスが良いかもしれません。