2022年4月から、当社が契約する電気会社から、衝撃的な連絡が。契約中の新電力会社は、「翌月から3倍以上大幅に値上げする。受諾しないなら電気契約を3ヶ月後に解除する」とのこと。契約の約款を見ると、確かに、3ヶ月前に甲もしくは乙が申し出れば違約金なしで解除できるとのこと。値上げの受け入れも考えましたが、同条項はそのままなので、さらなる値上げを迫られるリスクも有り、最終保障供給への移行を決断。私が、電力危機を乗り切るために頑張った軌跡をご紹介したい。現在勤務する企業や居住するマンションが高圧契約をしていた方々にも、ぜひご覧いただきたい。
新電力会社のビジネスモデルとその誤算
家庭用は低圧電気ですが、ある程度規模の大きな企業やマンションだと、「高圧」もしくは「特別高圧(特高)」の電気契約です。
高圧や特高の電気料金は、家庭用に先駆けて、自由化されました。実は日本は、原子力発電所が停止された以後も、円高の影響や、節電意識の高まりにより、電気が余っている状態でした。そこで、市場に流れた余剰電力を「新電力会社」が安く買って、企業向けに安く売るビジネスモデルが成立したのです。
こちらはある日の(2020年10月8日)の、電力卸売価格です。新電力会社の多くは、契約で、電気代が予め決められています。多くの場合、東京電力よりも少し安い16円~18円程度です。通常は、10円で仕入れた電気を16円で売って、6円儲けるという薄利多売。こうした安い値段で電気を仕入れて販売するというシステムです。
東京電力の通常メニューより大幅に安価な価格を提示することで、新電力は次々に契約を獲得していきました。電気というのは在庫という概念がありません。新電力会社が倒産したとしても、契約は打ち切りになったとしても、東京電力が電気を送るので、停電することはありませんよ。そんな話だったため、多くの企業が新電力と契約を締結しました。周りの同僚たちも「この契約は東電よりもずっと安いんだよ!」とドヤっていました。
しかし、2021年冬に電力危機が発生します。通常は20円程度の電力価格ですが、冬期の暖房需要等による利用増、そしてLNGガスの在庫不足、原発が稼働しないことでの余剰電力不足、天候不順による太陽光の発電量不足。いろいろな要因が合わさって一気に取引価格が上昇。200円近い取引価格と平常時の10倍の価格をつけたのです。
さて、仕入れ値が196円に上がったとしても、契約により販売価格は16円程度です。すると180円分の赤字です。しかし売らなければ契約不履行です。大抵の場合、1年契約となっていますので、すぐに値上げはできません。こうして多くの新電力会社のビジネスモデルに、陰りが見え始めたのでした。
しかし多くの顧客はこの危機には気づきませんでした。特に自分の電気代が値上がるわけではなかったからです。
新電力会社を分類してみる
さて、新電力会社といっても、いくつかの分類が可能です。
そもそも従来の電力会社は、発電、送配電、販売という電力ビジネスの全てを一括して行っていましたが、新電力会社は、販売のみに特化しています。
新電力会社は、大手電力会社が持つ送配電網を利用して、電力を購入し、自社のブランドで小売りを行っています。従来の電力会社に比べ、新電力会社は低コストで事業を展開できるため、料金の競争力が高いことが特徴なのです。
他地域進出型新電力会社
東京電力が、自社管内以外で電気を販売するために、作った新電力子会社が、「テプコカスタマーサービス」です。その他、中部電力が大阪ガスと共同出資した新電力会社「CDエナジーダイレクト」、東北電力が東京ガスと共同出資した、「シナジアパワー」などがあります。基本的には自社エリア以外の電気契約を締結するためにできた会社です。自社電源を使うケースもありますが、卸売市場からの電力調達も多くしています。自社エリアの供給も困難なのに、他社エリアでの供給はもっと難しい。ということで今やなりふり構わずな行動に出ています。2022年にテプコカスタマーサービスは、大幅値上げを顧客に提示し公正取引委員会に調査依頼が出されました。また、2022年に、シナジアパワーは破産しました。
エネルギー会社運営型
東京ガスや、JX(旧日本石油)、コスモ石油などのガス・エネルギー会社による新電力サービスです。ここは通常の新電力とは異なり、自社で発電を行い、配電網は東京電力を利用し、販売をしています。自社の発電所から電気供給を受けることができるため、調達力が高いのが魅力です。
2023年現在ですが、電力による赤字は大きいはずですが、ガスやガソリン等で顧客からの評判も大事な立場かつ、エネルギーの高騰で結構な儲けが出ているので、値上げには慎重に対応しているようです。
商社系
ものの売り買いといえばお手の物。商社による新電力です。三菱商事はMCリテールエナジー、住友商事は、サミットエナジー、丸紅は丸紅新電力、伊藤忠は伊藤忠エネクスなどがあります。石炭や石油などの調達網に加えて、国内では太陽光発電などを積極的に開発もしています。2023年現在ですが、MCIリテールエナジーはローソンに販売するなど、系列系への販売が多いので、有無を言わずに値上げしている模様です。。。。
独立系新電力
そして、自由家により新電力に参入した事業者が独立系の新電力会社です。F-POWER(現FPS)、みんな電力(現UPDATE)等が挙げられます。
もともと新電力は、在庫を持たず、卸売市場という公開された場で電気を調達し、顧客に販売するだけです。参入障壁はじつは低いのです。そのため、多くの会社が参入していきました。2023年現在、大幅値上げを提示しています。ただし、法人契約を大手電力が受付停止しているタイミングなので、市場連動価格(卸売価格に連動した価格)による契約に切り替えています。
グループ囲い込み系の電力会社
実際は、販売するだけのOEM的な会社です。au電気やドコモでんき、楽天電気のように、加入すると自社サービスもセットで割引するための契約です。個人向けが多いので、法人向けシェアは多くありません。2023年現在は、本契約を伸ばすためのサービスなので、辞めるにやめられず従前どおりの契約を行っているところが多いです。
2022年に新電力会社の危機が表面化して陥ったパニック
気候変動や、火力発電所の廃止、そして見通せない原発再稼働に加えて、ロシアによるウクライナ進行で、本格的な電力危機が到来しました。
2021年1月の電力危機は、一時的に200円近くの値段になったものの、2月に入ると8円~10円に落ち着き、あくまでも一過性の需給バランスによるものでした。しかし、2022年1月に入ると、電気代金は常時20円から25円の間を推移しました。これには電力会社も大変です。電気を売れば売るほど赤字です。そこで、多くの新電力会社が、契約打ち切りを前提とした大幅な値上げを提示や、市場価格と連動した契約への切り替えの打診、そして一部の企業は破産や撤退。新電力界隈は一時的なパニックに陥ったのです。
最終保障供給に切り替えたわけ
大幅な値上げを通知された6月に、すぐに行動したのは東京電力への申込み。ですが、「現在契約は受けられない」と冷たいお返事。その後、20社ほどに見積もり依頼をかけますが、すべて撃沈。関係企業にコネクションがないかなどを聞き取ったところ、商社系の新電力にツテがあるとのお話が。急いで利用実績等をご連絡しましたが、残念ながら、契約している新電力会社とほぼ同じ金額の見積もり。新電力会社も悪意で高い金額を提示しているわけではなく、実際先の見通せない状況で損をしない料金を提示するとなるとこうなるんだなという事情がわかりました。
そこで、私に迫られた決断は、
①値上げを受け入れる
②契約を終了し、東京電力パワーグリッド社の最終保障供給を受ける。
のどちらかです。残念ながら、値上げ金額が適正なのか判断できません。さらに、先方は今後、更に高い金額を提示してくる可能性もあります。そのため、東京電力パワーグリッド車の最終保障供給を受けることとしたのです。
ちなみに、最終保証供給が英訳すると「Last Resort」となります。それを見ると、「最後の楽園ってなんだよこのやろう!」って気持ちが荒れていたのを思い出します。(最後の砦とか、最終手段という意味です笑)
新電力なんかを契約(継続)したオレが悪いのか
最終保証供給に切り替わる日を迎えましたが、多くの人は気にしていません。各部署には「電気会社のご紹介等ありがとうございました。ただ、残念ながら条件が折り合いませんので、9月以降は東京電力パワーグリッドによる最終保障供給による、電気供給に切り替わるので、電気代が1.5倍程度値上がりする可能性があります。」とアナウンスしていました。実際に1.5倍位に値上げされました。
流石に電気料金の請求が来たあとは、「ほんとに契約できる会社なかったの?東京ガスでも電気やってるんでしょ?」とか、この間、「そんなになる前に他の会社に切り替えればよかったじゃない」などと言われたものです。「20社くらいあたってみんなだめで、その上で皆さんにも紹介をお願い、何社か紹介いただいたけど、それでも受けてくれなかったんですよ」「東京電力とも契約できなくなるなんて誰も想定できませんよ」「東北電力と東京ガスの合弁会社(シナジアパワー)が破産するような状況は想像ができませんよ」などと説明しました。
なんで「新電力と契約したの?」って言われましたが、契約したのは前任者だし、あえて高くなり、「新電力から東京電力への切り替え」は非常にハードルが高いですよ。去年の段階で、「東京電力と契約できない」なんてことは想定できませんでしたから。
ただ意外にも東京電力パワーグリッド社との契約というだけで、仕方がない感が漂ってくれました。
2023年2月現在の最終保障供給を分析する
最終保障供給ですが、通常より2割増しと高額な料金設定となっています。しかも、それに加えて、卸売価格が上がると、燃料調節費に加えて「市場価格調整単価」として、その分が上乗せされてしまうのです。昨年9月から10月にかけて、一時的ですが電気料金単価20円に燃料調節費10円、市場価格調整単価12円とかなって42円近くになりました。1年まえの2倍以上です。流石に最終保障供給を抜け出そうといろいろと検討をしました。
現在東京電力等で可能なのは、30分間隔の卸売価格と連動する「市場価格連動料金プラン」です。東京電力の市場価格連動料金は、使用時の電気料金が適用されるため、前もって電気料金が予測できません。また、当社は事業部ごとに子メーターで利用金額を出しますが、子メーターは時間ごとに算出できません。そのため、現在でも最終保障供給での電気供給を受けざるをえないのです。
救いの神は、やっぱり大手電力会社
さてそんな中ですが、電気の新規受付を停止していた大手電力会社が受付を再開しだします。しかし再開は限定的でした。
東北電力は、2022年7月29日から受付を再開しましたが、9月20日には受付を停止しました。
東京電力は、2022年10月24日に受付を再開しました。
私は、2022年10月24日に万全の準備でPCに張り付いており、無事に契約を申し込めました。周囲からは、「アイドルコンサートのチケットじゃないんだから」などと笑われたのものです。しかし結局東京電力も、わずか3日で受付停止をしました。アイドルコンサート並みに熾烈な競争だったのです。大手企業などで、稟議が間に合わず契約できなかった企業も多かったと聞いています。
とにかく大手電力会社が受付をしているような状況であれば、速やかに申込みをすべきです。
新電力会社の未来と、いま最終保障供給の企業がすべきことは
未曾有の電力危機を踏まえると、エネルギーの安定受給というものは極めて重要です。一方で新電力会社は、最終保障供給があるので、何かあっても安定供給されると説明しています。
新電力会社は、今後は、「脱炭素エネルギー」などに注力するものと思われます。しかし、自然由来のエネルギーは安定供給が難しいのが課題です。特に太陽光発電については、供給過多となっている面もあります。
例えばある晴れた春の日の電気卸売価格です。
太陽光が発電している時間は供給過多となり、取引価格はほぼ0円です。一方で発電量が少ない朝夕の価格は高騰します。こうなると太陽光発電があるから安価に調達できる仕組みにはなりません。
また、火力発電についても発電コストが高止まりする中、東京電力の発電所よりも安価に発電することは事実上できません。そのため、残念ながら新電力がこれまでのように大幅に地域電力会社よりも安い価格を提示することはなくなってくると見込んでいます。
ただ、市場価格連動料金に関しては、東京電力などよりも多少安い料金で契約することが可能だと思います。
ただし、よほどのことがない限りは東京電力や関西電力などの、大手地域電力会社と契約することをおすすめします。
理由はたった1つ、「東京電力でこれだったら仕方ない」という消極的な理由です。電気料金が値上がりした場合「どうして新電力会社と契約したんだ」「どうして契約変更しなかったのか」などと言われてしまいます。また、将来的にどういった動向になるかわかりません。新電力会社との契約で、3ヶ月前にどちらか一方の申し出で契約が解除できるような契約の場合、できるだけ速やかに大手地域電力会社に申し込むことをおすすめします。
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